IT時代の指導者

インターネットの四半世紀

便利な時代になったと実感します。
かつて専門知識は専門家に教えを乞うか専門書を紐解くしかありませんでした。
ところがインターネットの普及により、現在では誰もが簡単に膨大な情報を手にすることができます。
我が国のインターネット史から抜粋してみます。

1995年11月 日本語版Windows95発売
1996年 4月 Yahoo! Japanサービス開始
1999年 5月 2ちゃんねる開設
2000年 9月 Google日本語検索サービス開始
2001年11月 amazon日本語サイト開設
2002年 9月 Wikipedia日本語対応
2004年 2月 mixiサービス開始
2006年 6月 ニコニコ動画サービス開始
2007年 6月 YouTube日本語版サービス開始
2008年 4月 Twitter日本語版サービス開始
2008年 5月 Facebook日本語版サービス開始
2011年 6月 LINEサービス開始
2012年10月 Amazon日本向けKindleストア開設
2014年 2月 Instagram日本語版サービス開始

この四半世紀で我々のメディア環境、コミュニケーションツールが激変したことが分かります。

90年代、専門書を求めてよく図書館を利用していましたが、インターネットに出会ってからもそれはしばらく続きました。
私にとってのインターネット黎明期である2000年前後はまだ、その情報密度がスカスカというのが実情だったのです。

芸術分野やスポーツ分野、あるいは文学や形而上学の世界でも同様かもしれませんが、自分では感覚的に掌握した気になっていることを、言葉を通して他者に伝えることは思いのほか難しいという「指導者あるある」が存在します。
あるいはある仮説が生じた時、それを補完してくれる専門家の後押しがないと前に進めないことも少なくありません。
そんな時に専門書は助けとなるのです。

「リズム感」論を求めて

例えば多くの分野で用いられる「リズム感」という概念があります。
あるきっかけで、「リズム感」の重要性が日増しに高まっていた時期がありました。
ではどうすれば生徒にそれを身に着けさせることができるのか、否、それ以前に私の内にある「リズム感」の観念をどう言語化すればいいのか、そのヒントを音楽関連書などに求めたのですが確証を得れぬまま時は過ぎていきました。
そうしてやがて一冊の専門書と出合うことになるのです。

『黒人リズム感の秘密』七類誠一郎(著)

1999年に刊行された同書を入手したのは2004年頃です。
その後2010年に改訂版も出ているようですが、いずれも現在はかなりのプレミアがついているようです。
内容について語りだせば長くなりますので控えますが、分野を超越した「リズム感」について書かれたものでこれほど充実した文献を他に知りません。
残念ながら著者の七類氏は2010年に他界されていますが、世に出て20余年が経過してなお色褪せることのない普遍的な内容と専門用語に頼らない平易な表現はこの本の価値を高めています。

七類氏は「Tony Tee」の名で知られるカリスマ的ダンサーであったとのことですが、ダンスと無縁の私にとっては知る由もありませんでした。
ただ音楽やボクシングを通じて黒人のリズム感に憧憬を抱いていたことで関連情報を漁り、幸運にも同書にたどり着くことができたのでした。

情報の希少性が失われる時代

「リズム感」という「感覚」は一旦「理論」に変換することで初めて他者へのダウンロードが可能になり、その人なりのインストールによって「感覚」として実用化できます。
同書を「理論編」とするならば、その「実践編」とでも言えるVHSが存在することも知りましたが既に廃盤であり、探し求めた末にようやくネットオークションで落札することができました。
「リズム感」の専門書を探し始めてから、同書に出会い、自分なりに理解を深め、指導に反映し、ようやく成果が現れるまでに約1年を要しました。
生徒に現れた成果は顕著で、その実効性においてもS級の教材でした。
特に目覚ましい成果を見せた3名は、その後大きな飛躍を遂げることとなります。

今なお同書は名著として多くの賛辞が寄せられ、それをWeb上に見つけることは難しくありません。
「リズム感」について疑問を持った人であれば、時間を要することなくその存在を知ることができるでしょう。
前述したビデオも、今では簡単にYouTubeで見ることができます。

当時の乏しい情報で同書にたどり着くのは一筋縄ではいきませんでしたが、逆説的に捉えれば稀覯本であったがために競合相手に対してアドバンテージを持てたとも言えます。

Web上に溢れる情報
IT時代の指導者~

一方現在は書籍だけでなく、Web上に専門性の高い情報が張り巡らされ、探求心のある人には無尽蔵の知識の泉が存在しているようなものです。

「短期間で成果を上げる学習法」
「ポテンシャルを引き出すトレーニングのコツ」
「誰でも身につく演奏テク向上のツボ」

Web上は情報の洪水です。
玉石混交の世界である以上ユーザーには高いリテラシーが求められるとは言え、目の前の生徒が質の高い情報に接していることもまた日常的にありえるのです。
指導者にとって、情報面で優位性を保つことが非常に困難な時代が到来したと言えそうです。

指導者にとってはこれまで以上に、「情報整理力」、「観察力/分析力」、そして「モチベーション醸成力」などが問われていくことになるでしょう。
時代とともに指導者に求められるファクターも少しずつ変化をみせ、アップデートは不可避です。

現在の私は指導現場を離れ、指導者(オシエビト)をサポートする立場となりましたが、私自身が常にアップデートを怠ることなく、オシエビトとともに時代に即した教育/指導環境を創出できるよう努める所存です。

大野猛人
おおのたけと/Taketo Ohno 1969年生まれ。大阪府出身。1996年から2011年まで某武道団体傘下にて道場経営を行う。その間約1200名を指導し多くの強豪、指導者を育成。現在はオシエビト合同会社にて代表を務める。

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